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墨は七色に光る

スタジオモフサでも人気の墨染めのお話です。
さてさて、墨染めの墨とは何でしょう?
お習字の墨を連想された方が多いのではないでしょうか。そうあの硯の上でスリスリとする墨です。半分正解です。墨汁ではありません、墨と墨汁はまったく別物です。

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お習字で使うあの四角い墨の原料は、煤と膠と香料です。煤が墨の黒さの原料で、膠というのは接着剤みたいなものです。膠がちょっと臭うものなので、香料が入っていて、あの独特の墨の香りになります。ちなみに墨汁の原料はカーボンブラック。黒さはたいしたものですが、墨本来の「墨は七色に光る」が味わえないちょっと残念な墨汁です。世の中には墨汁を使って墨染めを唄ってる方もいらっしゃるようですが、ちょっと残念ですね。

さて、その原料となる煤というのは文字通り煤。墨の種類によって異なるのですが、当店で使っている松煙墨は松の根を燃やした煙の煤なのです。あのジブリ映画にでてくるマックロクロスケも多分その仲間です。

その煤、松煙墨を水に溶かしたものを染めるのですが、染料と異なり墨は顔料で、完全には溶けません。片栗粉みたいに溶けてるようでも溶けていません。墨の粒は水の中でも化学的に変化しないで、水中を浮遊しているだけです。布に染めても繊維にくっついた墨の粒はそのままでは落ちてしまいます。

ですから繊維にくっつける接着剤が必要です。お習字の墨には膠が入ってますが、膠はタンパク質で固くなるので、染め物にしようすると布がカピカピに固くなっちゃいます。
そこで膠よりも柔らかいタンパク質として大豆を使います。大豆をすりつぶした汁を、呉汁とよびます、使います。良く似てますが豆乳とは違います。豆乳は煮た大豆の汁で、呉汁は生の大豆汁です。この呉汁で松煙墨を溶かして布を染めるのです。乾燥させて高温で蒸すことで呉汁のタンパク質が硬化して布に定着するのです。膠でもバインダーと呼ぶ合成接着剤のほうが定着は強いのですが、ちょっと香りが好きじゃないっていうのと、呉汁を搾った残りの「おから」はその日の夕食としてイロイロ活用出来ちゃうのでなんだか得した気分です。

こうやってちょっと手のかかる墨染めですが、やはり均一的な墨汁と違って本当の墨の色は変化があって味があります。あんまり詳しいことはわかりませんが、原料の煤の粒子の大きさだとか油分、大豆のタンパク質などが、表情を持った七色に光ってくれる素材なのだと思います。まったく僕は布や染料、顔料、大豆などのホントそのままで魅力ある素材が有ってこその染めもの屋なのだと各素材屋さんに感謝です。